前回に引き続き、自転車連盟などの組織について見ていきましょう。
ASO
と、その前に寄り道をしましょう。世界最大の、といっても良いツールドフランスを主催する ASO (Amaury Sport Organisation) について。ほとんど Wikipedia のまとめですが。
まずは概要。
- Amaury(アモリ)は人の名前
- そもそもツールを創設したのはスポーツ新聞社レキップ
- レキップ新聞紙の色が黄色→マイヨジョーヌが黄色に
- 1992年新聞社レキップはツール主催権を譲渡
- 新聞レキップは現在は ASO の傘下
- ASO はパリ〜ルーベ、パリ〜ニース、フレシュ・ワロンヌなども主催。
- ダカールラリー、パリマラソンも主催
さて、前回、前々回から考えると IOC→UCI→JCF→,,, と上限関係が成り立っているように見えますが、ASO はここからは少し外れています。
そもそもツールドフランスは五輪より(一般的な認識として)格が上ですし、UCI の世界戦のアルカンシェルよりも上でしょう。よって ASO は UCI にヘコヘコして UCI に認定してもらって、UCI カレンダーに入れてもらう必要はまったく無いのです。
しかし世界の自転車競技を代表しようとする UCI としては気に食わないところ。以下時系列でどうぞ。
- — 2005年 —
- UCI「UCI ワールドカップやめてプロツアーを制定しました。」
- 「プロツアーに出られるのは UCI 認定出場ライセンス持ったチームのみね。」
- 当然 ASO 主催のツールやパリニースはプロツアー対象レース。
- ASO(はぁ?招待チームは自分で選びたいんだけど,,,)
- — 2007年 —
- ASO「そのチームはライセンス持ってるけどパリニースに出場させないから」
- UCI「え,,,」
- ASO「ツールにプロツアー以外のチームもワイルドカードで出しまーす」
- 「それから、来年からうち主催のレースはプロツアーから撤退するわ」
- ジロ&ブエルタ「俺も俺も」
- UCI「ぐぬぬ,,,」
- — 2008年 —
- UCI「じゃ、じゃあツールは新しく作った UCI ワールドツアーに入れるから」
- ASO, ジロ, ブエルタ「はぁ?もういいから。新制度でやろうや。」
- UCI「は、はい,,,」
- 「で、でもでも、ツールには UCI プロツアーの全チームを出してね。」
- ASO「はあ(怒)?!」
- 「ツールにプロツアーのアスタナは招待しない。ドーピング多いし。」
- 「ところでさ、パリニースがプロツアーより格下ってどういうこと?」
- 「2008パリニースは UCI とか要らんから。仏競技連盟の主催でやるわ。」
- UCI「パリニースに出た選手・チームに制裁を課すぞコラ」
- ドンパチ、バチバチ。
- IPCT(*1)「まあまあ、参加チームの投票で決めようや。」→ASO 勝利。
- UCI「仏競技連盟に制裁10,000スイスフランだ!」
- 仏連盟「あっそ。来年からもウチがパリニース主催するから。」
- コフィディス「来年は UCI プロツアー登録とかもういいや」
- 他全チーム「俺も俺も。ライセンス料高いし、大したレースないやん。」
- UCI「ヨーロッパ競技連盟は支持してくれてるし、プロツアー継続しようよ(泣」
- 2008/8 IOC の仲介により和解(?)
- 2009,10 UCI, ASO, ジロ・ブエルタ主催者による UCI ワールドカレンダー開催
- 2011 UCI ワールドツアー創設(= UCI プロツアー消滅)
*1: IPCT = 国際プロ自転車チーム連盟
というわけで、現在は UCI ワールド・ツアーという形で運営がなされています。
だがしかし。
結局 UCI ワールドチームというライセンスを持ったチームが優先的にワールド・ツアーシリーズ(グランツール含む)に出場できるのは変わりません。プロフェッショナルコンチネンタルチームであれば招待でも出られますが、数は少なめ。
これは ASO にとっては大会出場チームを選ぶ自由度が減るわけで、2017年は ASO は主催イベントは「ワールド・ツアーじゃなくていいや」と発表。チームにとっては、苦労して UCI ワールドチームライセンス取得したのにツールに出られないかもという罠。
後続のニュースが見つけられなかった(←調べるの疲れた)のですが、2017 World Tour のレースを見るとパリニースもツール・ド・フランスも入っているので、落ち着いたのでしょう。
金銭的な問題もありますが、まあ要するに主導権争いをしているわけです。
ASO が UCI、ひいてはオリンピックに対抗できるようなコンテンツを持っているというのがポイント。ASO としては五輪や世界選手権なんてカンケーねえから邪魔すんなよ、というのが本音でしょう。建前としては世界で手を取り合ってみんなで頑張りましょう、というのはあるかもしれませんが。
逆にそういったコンテンツを持っていなければ、おのずと上位組織に従属するような形を強いられる可能性は非常に高いわけです。例えば JCF はオリンピックに日本人を出させたいでしょうから仏競技連盟のように UCI 逆らうことなんて絶対にできないでしょう。
また、UCI も世界選手権という大きなコンテンツを持っており、ぶっちゃけアルカンシェルの方が五輪金メダルよりもステータスは上。そうなると UCI としては IOC にヘコヘコする必要ないのかもしれません。IOC としても UCI の協力がなければ五輪の予選もできないわけですし。
いやしかし、調べてみてやっと UCI xxx ツアーについて理解。政治ですねぇ。
AJOCC
さて、やっと AJOCC 登場です。正式名称は「日本シクロクロス競技主催者協会」。一般社団法人。
ちなみに JCF は公益財団法人。簡単に言うと、一般社団法人は個人が集まって頑張りましょう、という団体。公益財団法人は基金を使って広く公益のために働きましょうという感じ。
AJOCC の About ページの(目的)は以下のようになっています。
この法人は、公益財団法人日本自転車競技連盟の競技規則に従いシクロクロス競技を実施する大会主催者を統轄し代表する団体として、シクロクロス競技の普及振興と、シクロクロス競技者の心身の健全な発達に寄与することを目的とする。
一言で言ってしまえば「オーガナイザーの集合体」。JCX レースを運営したり、オーガナイザー間でのシクロクロスについての情報共有や議論といった活動が中心となっています。ちなみに個人のみならず、都道府県車連の関係者も加盟しています。
さて、JCF との関係。
例えば全日本選手権の主催は JCF ですが、実際のレース開催地の選定などについては AJOCC 内で議論されているようで、ほぼそのまま JCF を通して発表されます。運営の大部分も個別のオーガナイザがやっている印象。
また、全日本の男子エリート・U23 の出場資格は JCF のナショナルランキングによって制限されますが、これはほぼ AJOCC のトップシリーズである JCX シリーズとイコールです(*2)。
JCX シリーズのレース開催については JCF は直接は関わってはおらず、言うなれば JCF が AJOCC に全日本予選を委託している状態です。ちょっと違った見方をすると「全日本への出場資格を得られるというオプションを AJOCC レースに与えている」でしょうか。
それから、これは JCF の本来の業務ですが、UCI レースの監督や審判団の派遣などを行なっています。これも JCF の協力がなければできないことですね。
さて、ここまでをざっとまとめてみましょう。全部網羅したわけではありませんが、関係性が離れている大会も追加してみました。そういえば世界戦の出場権も JCF が対象になっていますね。
まあ大体こんなところでしょうかね。JBCF, 県車連は JCF に加盟しているけど内部組織ではないので、前回のよりもこっちの方が正しいかな?
次回は最終回。AJOCC でも一部のカテゴリーで取得が義務化されている JCF ライセンスについて考えてみましょう。
*2: 2015-16 は JCX シリーズのレースに加え、GPMistral のレースが加えられていた。